企業の人事担当者・卒業生に聞く「多摩美への期待と実績」

多摩美出身者は、ビジネスの最前線からどのような評価を受けているのでしょうか。また、その卒業生たちが学んだ多摩美での4年間は、ビジネスの現場でどう生かされているのでしょうか。さまざまな業界で活躍する企業人たちに、多摩美に求められる期待と実績について尋ねました。

株式会社博報堂

造形力、クラフト力に秀でた多摩美だからこその広いクリエイティブ力に期待します。

広告会社。企業フィロソフィーに「生活者発想」と「パートナー主義」を掲げる。制作部門に強く、多数の世界的受賞作品ほか著名クリエイターを輩出する。
www.hakuhodo.co.jp

第三クリエイティブ局
エグゼクティブ・
クリエイティブディレクター

米村 浩さん

造形を考え続けた経験が
「肌感覚で想像できる能力」に。

博報堂に在籍する美大卒生の中で、多摩美の出身者はとても多いと思います。以前は広告と言えば、テレビCMと新聞広告、駅貼りのポスターなどが代表的でした。

でも最近は生活者とコミュニケーションする場所が、イベントやプロモーションであったり、ネットやスマホといったテクノロジーの進化も加わり、その領域は非常に多岐にわたります。これからは前述したような狭義の広告グラフィック制作にとどまらず、さまざまな方向性でのクリエイティブチャンスがさらに広がっていきます。

そんな時代には造形力に裏打ちされた上で発想力を併せ持つ美大生のクリエイティビティに対する期待はとても大きいのです。例えば2015年に話題となった『ちゃんりおメーカー』。制作したチームの一人は多摩美の卒業生です。「サンリオピューロランド夏の集客プロモーション」として手掛け、「Yahoo! JAPANインターネット クリエイティブアワード 2015」のグランプリを受賞しました。これが単にビジュアルデザインだけでなく、「サンリオピューロランドの動員に貢献する」という一連のミッションで取り組まれたように、多くの案件でコミュニケーションデザインを扱う能力が求められています。博報堂は“粒ぞろいより粒違い”、多種多様な才能を持つ人材が集まっていますが、中でも多摩美生は「就職して世の中と勝負したい」というマインドを強く感じ、さらに造形力、クラフト力が秀でている印象があります。大学ではその力を身につけるために、造形を繰り返し、考え悩み続けてきたことでしょう。

そういう経験は「人がどう感じるかということを肌感覚で想像できる能力」につながっていると思います。CMでもゲームでもイベントでも、一人の生活者がそれに接した時「どう感じるか」を想像するセンサーが組み込まれている人材は、博報堂という、世の中と対話するための装置を作り出す会社にとって、コアで貴重な才能だと思っています。多摩美での学びは、その才能の源泉と言えるかもしれませんね。

TBWA\HAKUHODO*
Head of Art Disruption Lab
クリエイティブチーム
アートディレクター
徳野 佑樹さん
2007年|グラフィックデザイン卒
 

* TBWA\HAKUHODO=博報堂とTBWAワールドワイドのジョイントベンチャーとして設立された総合広告会社。徳野さんは2013年より博報堂から出向中。

「全然伝わらないよ」と課題で怒られながら培われた経験が、今に生きています。

『ファイブミニ』や『ナツイチ』、『ピュレグミ』など、マス広告のデザインを担当しています。マス広告以外のプロジェクトの例では、認知症の方が働く『注文をまちがえる料理店』があります。間違えるというネガティブなことを、楽しいことにマインドチェンジしたいと考えました。ロゴのデザインにもそんな気持ちを込めています。また、リハビリをサポートするペダル付きの車いす『COGY』は、「あきらめない人の車いす」として、ネーミングからコミュニケーションデザインまでトータルでリブランディングをしました。この仕事では「2017 ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」クリエイティブイノベーション部門のグランプリや「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2017」など、多くの賞を頂きました。デザインの持つコミュニケーションの力で思いを世の中に広げていきたい。これはずっと意識していることです。

大学3年の時、CMの授業で出来立ての資生堂CM『あたらしい私になって』を見せられた時、泣いちゃって(笑)。広告の面白さと可能性を感じ、これが広告の世界を意識した一件でした。

僕は臆病なんです。伝わらないことに敏感で、だからこそ、デザインでも言葉でも、絶対わかりやすく伝えたいと思っている。思い返せば、多摩美で課題に取り組み、人の目にさらされ、「全然伝わらないよ」と怒られながら(笑) 培われた経験が、今に生きています。一生懸命やったことが否定されると、恥ずかしいし落ち込みますよね。でも、それが良かった。後輩にも、ダサいとか恥ずかしいとか思わなくていいから、とにかく一生懸命やろう、と伝えたいです。

それでもやりたいと思えれば本物ですから。

関連情報:cogycogy.com

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『注文をまちがえる料理店』。たとえ注文を間違えても、クスッと笑って許してしまうような、優しい気持ちを誘うシンボルマーク。
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ビジネスインキュベーション局
スダラボ主宰
エグゼクティブ・
クリエイティブディレクター

須田 和博さん
1990年|グラフィックデザイン卒

大貫卓也教授に影響を受けて、
広い領域を手掛けるように。

多摩美の教授でもある大貫卓也さんが博報堂時代に手掛けられた「としまえん」の広告が予備校生の頃から大好きで、その憧れが入社のきっかけです。数年間、チームの一員でした。ラフォーレ原宿のグランバザールや、カンヌ・グランプリの日清カップヌードル『hungry?』の頃です。大貫さんはグラフィックやCMだけでなく、ボトルキャップから映画まで、何でもやる。その「目的達成のために、あらゆる領域をデザインする」姿勢に強く影響を受けて、自分もグラフィック、CM、ウェブ、スマホ、デバイス開発など、キャリアを転じながらあらゆる領域を手掛けるようになりました。さらに受託だけでなく、自分たちのアイデアを自分たちでカタチにするために4年前に「スダラボ」を立ち上げました。京都・建仁寺の『風神雷神図屏風』を最新のMR*技術で鑑賞体験する施策が、その最新作です。

在学時に、複数のテーマから自由に選んで「何かを作ってプレゼンする」という、一風変わった授業がありました。ここでひたすら発表を繰り返す内に「ウケる」「スベる」が肌でわかるようになった。自分のアイデアを、他人の目で客観的に見るクセが身についた。この体験で、アイデアだけは誰にも負けない自信を持って、当時の就活にも挑めました。なので、多摩美の皆さんには、今やりたい何かをとことん追求しろ!とだけ言いたいです。学生時代にそれをしないと、社会に出てからも何者にもなれない。

追求するものは、ぶっちゃけ何でもいい。今やってることが未来にどうつながるかは、結局、誰にもわかりません。だから今、夢中でやるしかないんです。

* MR=Mixed Reality。CGなどの仮想世界と現実世界を融合させ複合現実をつくる技術のこと。

MR技術を活用して文化財を「体験する」のがテーマの作品。国宝「風神雷神図屏風」の制作意図などを3Dホログラムで体験できる。
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