企業の人事担当者・卒業生に聞く「多摩美への期待と実績」

多摩美出身者は、ビジネスの最前線からどのような評価を受けているのでしょうか。また、その卒業生たちが学んだ多摩美での4年間は、ビジネスの現場でどう生かされているのでしょうか。さまざまな業界で活躍する企業人たちに、多摩美に求められる期待と実績について尋ねました。

ソニー株式会社

デザインはソニーの資源。
多くの多摩美出身者が支えています。

日本を代表する電機メーカー。ソニーグループを統括する事業持株会社。世界首位のCMOSイメージセンサーやゲームなどのエレクトロニクス分野をはじめ、映画・音楽分野にも重点を置く。
www.sony.co.jp/design/

クリエイティブセンター
戦略企画グループ
人材開発担当
長坂 佳枝さん
1982年|グラフィックデザイン卒

多摩美出身者が担当した
デザインの成果を挙げたら
きりがないです。

当社のデザイン部門には多くの多摩美出身者がおり、その成果も多岐にわたります。例えばAIBO、Xperia、最近ではPlayStation®VRなどもそうですし、多摩美出身者が担当した製品例を挙げたらきりがありません。

いつの時代も、良いものを作り人に感動を与えたいという精神は変わらないのですが、それに加え最近ソニーでは、「体験価値をデザインする=ユーザーエクスペリエンス(UX)*のデザイン」を重視しています。その製品やサービスを見るだけで、魅力的な生活を想像させるようなものを作り出していきたいと頑張っているところです。多摩美の出身者は、在学中にすごく鍛えられている印象があり、ビジュアライズする力、形にする力、コンセプトを生み出す力が高いと感じています。デザインを学ぶことは物事を見る力を養い、様々な生活シーンでの提案や社会問題を解決できるスキルを持つ、ということだと思います。ですので、今後はさらに統合的なデザインや、ソリューション*的な発想ができるようになると、より強みが増すでしょう。それができれば、まさに鬼に金棒ですね。

昨年グッドデザイン賞を受賞した『大井競馬場のパドックビジョン』は、単にデザインだけではなく、企画やマーケティング、入札、顧客をどう分析するかといった工程にまでデザイナーが関わったソリューションデザインの良い例です。多摩美の強みである造形力、ビジュアル表現力は当然ベースにあるものとして、さらに「何を自分が提案したいのか」ということを語ることができ、「こういうものなら、私も使ってみたい」とか、「こういう体験をしてみたい」といったストーリーを紡ぎ出すようなものを生み出せる、そんな方に我々の仲間になってほしいですね。

* UX=ユーザーエクスペリエンス。製品やサービスの利用を通じてユーザーが得る体験のこと。
* ソリューション=課題の解決策。

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プロダクトデザイン専攻卒、奥村光男氏による『大井競馬場のパドックビジョン』。馬を自動追尾して撮影できるカメラシステムで、競馬ファンの心を掴んだ。
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クリエイティブセンター
スタジオ2
チーフアートディレクター
詫摩 智朗さん
1990年|プロダクトデザイン卒

多くの先生が一線級の経験者
であることは大きかった。

現在はチーフアートディレクターという立場で、ウォークマンやヘッドホン、スピーカーなどオーディオ製品全体について、誰に向けてどんなものを作るのか、デザインの方向づけを行うことが主な役割です。さらに、個々の製品だけでなく、大きな視点で「ソニーらしさとは」という点でのディレクションも行っています。

多摩美での学びにおいては、多くの先生が、家電メーカーや自動車業界などの一線級の経験者であることは大きかったです。社会のトップレベルの基準が身近にある。このレベルに近づければ、社会に出ても何も心配がない。そういう環境は貴重でした。それに授業での同級生との競争もすごく勉強になりました。まわりには知見、手技共にすごい人たちばかりで、自分が敵わない部分を見せつけられました。そこで考えたのが、すでにある分野で勝ち目がないなら、新しい分野で勝負していこうということでした。今も根強く残っている、新しいことにチャレンジしたいという姿勢は、この時に育まれたのかもしれません。ほかにも、トライ&エラーの習慣や細部への作り込みというのは、多摩美の伝統だと思います。学生の作品集を見ても多摩美生のクオリティは高い。それは、「ある程度のクオリティに仕上げなければ成果として出さない」という感覚があるからでしょうね。

勉強が嫌いだからという逃げの理由でデザイナーになれることは絶対にあり得ません。多方面の知識、語学も含めたコミュニケーション能力、プレゼンテーションには論理的な思考が必要です。ひとつのことを掘り下げて考えることも大事、かと言って他が疎かになるのもいけない。学生時代は、幅広く様々なことを学んでほしいと思います。

指先程度の大きさしかないインナーイヤーイヤホンから南米向けに発売されている巨大スピーカーまで、多様なプロダクトを手掛ける。
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クリエイティブセンター
UXプラットフォーム
デザイングループ
デザイナー
田村 綾香さん
2008年|情報デザイン卒

授業でやっていたことが、
そのままソニーの仕事と地続きだった。

去年担当した『KOOV(クーブ)』のプロセスのお話をします。デザイン部署では子どもへのリサーチから始まり、コンセプト*を固め、製品を作りあげていきます。その中で私の仕事は、顧客が商品やサービスを購入してから飽きずに使い続けてもらうための仕掛け、デザインを作ることです。

振り返ってみると、大学で学んだ一つひとつに意味があり、今につながっているなと感じます。「音楽プレーヤーの中で起こっていることを寸劇で表現する」といった課題など、最初は意味がわからず友達と腹を立てたことも(笑)。サービスデザインの授業では、「観光客を観察し、気持ちを捉える」という実習を行いましたが、後者からは「シーンごとのユーザーの気持ちを考える」こと、前者からは、「情報をわかりやすく、楽しく伝える」ことを学んでいたんだと、働いてからわかりました。また、仕事においては先輩も同様、共に初めての分野への取り組みとなることも多いので、自分で考えて必要なものを用意します。それも授業課題で取り組んできた環境と、根本的に同じだと感じます。

もし、中高生時代に絵だけ、あるいは勉強だけを頑張ってきたとすれば、私は今、ソニーにいなかったでしょう。ソニーには一般の難関大学出身の人も多くいますが、私は絵の勉強もしていたおかげでその方たちと一緒に働けていると思います。またビジネスの現場では、デザイナー以外にも誰にでも伝わるよう論理的な説明ができることも重要ですが、これは学業側のスキルかなと思います。両方を頑張っていたことに大きな意味があり、今に生きています。

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ロボット・プログラミング学習キット『KOOV(クーブ)』。ブロックで自由な「かたち」をつくり、「プログラミング」によってさまざまな「動き」を与えて遊ぶことができる。
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クリエイティブセンター
スタジオ2
デザイナー
杉山 直樹さん
2002年|プロダクトデザイン卒

実践的な学びと企業との共同研究。
社会と同じレベルで鍛えられました。

現在、私は、ワイヤレススピーカーと中南米向けの大型オーディオの2つのカテゴリーを扱うチームに在籍しています。

学生時代を振り返り、今に生きていると感じることは、ものを作る時の「考え方」です。課題はコンセプトの立案から与えられるのですが、課題に適した斬新なコンセプトをうまく形に表現できていると高く評価されます。その一連のプロセスを徹底して学びましたが、これは社会に出ても同じです。「コンセプトありきの造形」、そういった意識を多摩美生は強く持っているのではないでしょうか。それを顕著に感じたのは、ソニーの就職試験です。他大学と多摩美の学生数名で試験を受けましたが、多摩美生の場合は客観性を備えた独自のコンセプトの立案から、それを理にかなった造形に落とし込む造形力まで、製品として通用するレベルの提案ができていると感じました。

そして、社会での即戦力的な力を得られた理由には、現役で活躍されている先生方の日々の厳しいご指導が挙げられます。締切時間の厳守。プレゼンに間に合わないと評価は一切つきませんし、ソニーご出身の安次富先生も、「何やってもいいんだよ」とおっしゃるのに、一定のクオリティに到達しないと非常に厳しかった(笑)。また、3年生から始まる産学官共同研究も貴重な経験でした。私は、松下電器産業(現・パナソニック)など4社もの企業を経験させていただきました。構造、素材、製造方法などにも踏み込んでいくのですが、これは他大学ではなかなか得ることのできない経験ではないでしょうか。

スタイリッシュなデザインが話題となった、ワイヤレスポータブルスピーカー『h.ear go』と、『ラジオICF-506』。前チームで担当。
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